物語  −9   ((マキシムシム。

「んとなぁ・・・・まず俺の家族は父親一人だ。」
桂汰はいきなりそう言って止まった。
それから少し考えて
「他の知ってる情報ってそんなもんだな。」
と。
え?
終わり?
「じゃ、次、翔汰・・・」
「ちょ、ちょっと待ってよ?!」
今まで僕が考えてきたことと桂汰の言ってる事とがまるで違ったので、ここで僕、桂汰に質問攻めをする事になる。
「桂汰は・・・凜汰と一緒なんじゃないの?」
「何言ってんだよ。俺が一人で翔汰が凜汰と一緒なんじゃ・・・・
 って翔汰も一人なのかっ?!」
「じゃなきゃ、いきなり『凜汰と桂汰どっち?』なんて
 聞かないだろうよ。」
「そりゃそうだな・・・。いや、てっきり俺は凜汰は翔汰と一緒かと・・。」
二人ともめちゃくちゃな勘違いをしていたみたいだった。
そうなると今、二人とも『凜汰』に関する情報を一つも持っていない事になる。
こりゃまた大変な・・・・。
「んじゃ、凜汰はどこにいるんだよ?
 親以外の所ってどこが・・・・」
「まぁ、おじさん、おばさん、じいさん、ばあさん・・・
 っていう親戚すじがライトなんじゃないかな。」
「なるほど・・・。翔汰って頭いいんだな。」
・・・このくらいは思いついて欲しかったな・・とちょっと思ったりして。
桂汰は推理したりするんがあまり得意ではないのだろうか。
「しかし、俺、
 おやじからじいさんにもばあさんにも・・諸々の親戚にも会わせてもらったことないぞ。」
「それは俺もだ。
 多分、凜汰の事を隠したがってるんだよ。まわりは。
 何せ父親にも会ったことないんだからな。
 三つ子の事実を知られたくないんだろ。」
「ふーん。そんなに嫌な事でもあんのかね。」
まぁそれを僕等で暴いていこうじゃないか、って話なんだけどね。
僕は更に質問をする。
「えと、それはひとまず置いといてさ。
 簡単な質問をする。いいか?」
「いいよ。」
「・・・桂汰の名字って何だ?」
「『井上』。」
「・・・・・・ほうほう」
ほうほう。
なるほどね。
この簡単な質問で分かったもう一つの真実。
「母親と父親の名字は一緒だぞ、桂汰!」
「は?それがどうにか・・・」
「つまり離婚しても、母さんは名字を旧姓にしていないんだよ!」
「だからどういうことだよ?」
「多分、推測だけどさ。
 ・・・母さんは父さんが嫌いになって離婚したわけじゃない。
 あの人、そういう所はしっかりしてるから
 離婚となれば旧姓に直すと思うし・・・。
 よっほど井上っていう名字が気にいってんのか
 それとも父さんの事をまだちゃんとした旦那だと思ってんのかのどっちかだ。」
「・・・・うん。」
「俺ら三つ子が別れたのはだたの離婚のせいじゃないんじゃないのかな?」
バァーーーーッと話した僕。
少しポカンとした感じの桂汰。
でも意味は分かったみたいだ。
「翔汰は俺とおんなじ井上って名字で・・・。
 家族構成は」
「母さん一人な。」
「って事か。んでもって離婚理由は」
「ただの喧嘩じゃない。」
「と。」
「多分だけどね。」
なんとなく話が進んでいっていた。
どこまで本当かは分からないけど。
そんなこんなで時は10時。
まだまだ話は続きそうだな・・・と思った矢先。
桂汰が一言。
「俺、10時半には家に帰らなきゃいけねぇんだ。」
「あ?そうなの?」
「うん。ちょっとな会合がな・・・。」
か、会合・・・・・?
「それでその・・そろそろ。」
「あ、うん。」
くそぉ、もう少し話せると思ったのにな。
「じゃまた明日ここで待ち合わせしないか?」
「いいね。それ。」
「翔汰も話したらないだろ?」
当たり前だ。
「明日、土曜だし・・・・。んとここ、9時半に。」
「うん、分かった。」


そういう感じで僕等は別れた。
いったん、二人とも一人っ子に戻った。