物語  −4   ((ひらがなと眼鏡で形成された何か。

テンションが絶頂にある僕にとって
この事はおもしろすぎる餌みたいなもんでワクワクしない訳は無かった。
もしも・・・・僕に兄弟がいるとしたら・・。
兄弟がいて嬉しい・・・そういう感覚は正直無いかもしれないけど、
もし、いるなら。
会いたい。
その
「凜汰」と「桂汰」ってのに。
そもそも、
何で僕らは一緒にいないのか?
兄弟なら一緒にいる権利があるんじゃないのか?
しかも、
今までその存在すら知らなかったっていうのは一体何なんだ?
会いたい。
そして、
話したい。
顔が僕とそっくりなそいつらと。


そう思った時、
僕は凄いスピードで味噌汁をよそい、オムレツにソースをぶっかけ
飯を茶碗に適当に放り入れて口の中にかきこんだ。
こうして考えている時間はもったいない。
せっかく学校を休んだのだ。
今からその兄弟とやらを探しにいこうじゃないか。


今からその兄弟とやらを探しにいこうじゃないか。


テンションのせいか、何故か外に出ればその兄弟に会える気がしてならなかった。
やたら近くに居るような感じがあったのだ。
何だ?何なんだ?
分からない。でも外に行けば何だかきっと分かる。
早く出よう。
早く。


飯をかきこみながら探偵の気分になって
何故僕と兄弟がはなればなれになったのか考えた。
こうして飯を食べる短い時間ももったいないように思えたからだ。
それに、いくら速く食うといってもよく噛まないと健康に悪い。
意外とそうゆうとこを気にするタチなのだ、僕は。A型の。
そういくと最低食事に五分はかかる。
五分間、脳をフルスピードで回転させればひとつぐらい思いつくかもしれない。
そう思って考える、考える。


言い忘れていたが、家は母子家庭である。
だから母さんは働きに出ている訳なのだが。
それでもって母子家庭になった理由というのが
母さんと父さんの離婚であった。
しかし、
僕は父さんがどんな人だったのかをしらない。
僕が物心つく前に離婚したからだ。
しかも今も父さんには会っていない。
というか会わせてもらっていない。
何がそんなに嫌なんだかは知らないが。
ここまでうちの家庭事情をおさらいしたところで一つ案が出てきた。
つまりは。
全ての情報を整理する。
つまりはだ。
「僕と兄弟の別れている理由案その一」はこうゆう事なのだ。
〔井上家の父と母は酷い喧嘩でもしたのだろう。
 ほぼ縁を切るような形で三人の息子が産まれた直後、離婚をした。
 そのうちの翔汰は母の所へ、凜汰と桂汰は父の所へいったのである。
 母は父を徹底的に嫌い、息子を父に会わせようとしなかった。
そして、父の存在自体を否定するため父方の二人の息子の存在も翔汰に言わなかった・・〕
ありえそうな話である。
てか、これで正解なんじゃなかろうか?
まぁ、随分僕が悲劇のヒーロー化して父母が悪者になってるが。
正解っぽくないか?なんか。
ここまで考えると推理ではなく妄想のようだがあり得そうな所なのでなんともいえない。
そう思うとちょっと腹が立ってきた。
勝手に僕が考えておいてなんだが、
本当にこうだったら・・・・酷くないか?
相当、酷いぞ、こりは。
絶対、「凜汰」と「桂汰」に会ってやる・・・・そう思った。
三つ子が一緒にいる・・・その形をまた取り返すんだ。



茶碗とお椀と皿と箸、
ガチャガチャと重ねて流しに置く。
只今、8時55分。
自分の部屋に走って帽子をかぶる。
できるだけ深く。目が隠れるくらいが調度いい。
きっちりとかぶると足早に玄関へ。
「でんた、いってきます。」
でんたは笑った。


その時、急に後ろに視線を感じた。
気持ちわるくなって振り返る。
忙しい時に・・・どうしたんだ?
そこには
端が欠けていらなくなった母さんの大きな鏡があった。
母さんの部屋から撤去されて以来、僕の部屋に放置されている妙にデカい鏡である。
なんだろ?
鏡をじっと見つめた。
久しぶりによく見たら本当にデカい鏡だなぁ・・・。
僕の全身がすっぽり入るぐらいだ。
僕の全身・・・足先から頭まで。
僕は鏡の中の僕の目の奥を見た。


その瞬間
あり得ない事が起きた。
鏡の中の僕はにやりと笑い、僕の目を睨んだのだ。
何故か僕はビクつく。自分なのにどうして?
鏡の中の僕はあくびをして背伸びをすると手をにゅっとこっちに出してきたのである。
そして一言。
「・・・よっ!」
愕然としてしまった。
な、なんだ、このファンタジーな展開?!
な・・・?!
鏡の中の僕は「よいこらせ・・」といいながら鏡の中から完全に出てきた。
紅い、趣味の悪いパーカーに黒いジーンズを着ていた。
こんなファッションセンス・・・僕じゃない!絶対!
あっけにとられている僕に彼は追い打ちをかけるように言った。


「何をそんなに驚いてんだよ?もう一人の俺。」