物語  −2   ((死んだり生きたり忙しいね。現代人。

別に「頭が痛い」=「何かおもしろそうな事が起こる前触れ」というのは
僕の思い込みな訳ではない。
前にそういう事が何回もあったのだ。
普通にずる休みした日、僕は街に出た。
だが、出たところで何があるという事もなく、ただ淡々と時間が過ぎていくだけだった。
いつも買う漫画を買って、マックでチーズバーガーを食う。
そのまま一日が終わった。
やっぱりズルで休むのは良くないよ、と誰かが教えてくれたのだろうか。
学校に行った方がまだマシだったかもしれなかった。

ところが、頭痛のする日。
念のため学校を休む。最初はそうだった。
しかし、だんだん頭の痛みが消えていくにつれて
静かに、そしてゆっくり僕の中のテンションが上がっていったのである。
やったらワクワクしてきたりして、
思わず家を出た。
街がいつもより明るく見えたし、何かが僕を待ち受けているような気がしてならなかった。
そしたら。
道で2000円札を拾った。
欲しい本が安くなっていた。
いい服が買えた。
・・・・・・そんなプチいいことが連続して起こったのである。
今思うと大した事でもない感じだが、
頭痛後の僕のテンションはあり得ない程あがっているため
プチいいことでも宝くじで三億円が当たった位喜べるのだ。


世間一般から見ればそうとう変な人だけども、
頭痛後の自分、結構楽しくて好きだったりする。
何しろ「でんた」と出会えたのも頭痛後の僕の時だ。
でんたというのはうちの猫の名前。
僕の兄弟みたいなもの。
ある頭痛後の日。
家の前で白くて汚い子猫が鳴いていた。というか、泣いていた。
それが「でんた」だった。
母さんに黙って勝手に家に入れて風呂で洗ってあげると
その白くて綺麗な子猫は僕の足に擦り寄ってきた。
「・・・・・かわいい。」
その瞬間からうちの家族にその猫はなったのだ。
なったのですよ。
なったのですよ。
そのときの僕の猫の印象は「汚い」から「かわいくて綺麗」に変わっていて、
歯ブラシなんかのCMにでてくる「キラッと光る白い歯」を連想させた。
歯ブラシ・・・といえば。
デンターシステマ。」
・・・・猫の名前は「でんた」に決まった。
(でんたがメス猫だったのに気づいたのはもうちっと後の話。)


オムレツを電子レンジにぶっ込んで椅子にだらりと座る。
頭痛がまだ続いている。
早くひいてくれねぇかな・・・。
とにかくテンションをあげたい。
そんな僕の膝の上にのんきに飛び乗るでんた。
でんたはほっんとにかわいいなぁ・・・。
でんたの腋の下に手を入れて持ち上げると、でんたは最高にいい顔になった。
かわいい。
僕が猫だったら絶対嫁にもらうと思う。
なんでこんなに可愛いのに捨てられてたんだ?お前?
でんたは最高の顔を続けていた。
このまま抱き締めよう・・と思った時
「チーンっ!」と電子レンジが僕を呼んだ。
機械に二人の愛を邪魔される程頭にくるものはない。
・・・と思ったらさらに頭痛が酷くなった・・・。



「くそぉぅ・・・・・。」
今までに無い、激痛。
仕方ないのでここは頭痛薬のお力をお借りることにした。
どこにしまったんだろな・・・まずクスリ入れみたいのがあったはず・・・。
たいがい頭痛薬無しで毎回頭痛を乗り切る僕は薬の位置すらよく分かっていないのだ。
うーんと・・・。とりあえず母さんの部屋にあるかな。
ガラ。
ちっちゃい棚の中、無い。
鏡台の上、無い。
押し入れ、ある訳無い。
指さし点検のごとく調べ上げたが成果はえられなかった。
ただ一つ、調べてない所といえば鏡台についている引き出しぐらいだ。
僕はそこを一度も開けた事はない。
幼稚園の時、「絶対開けちゃダメよ。爆発するから。」と言われて以来、
なんとなく開けないでいた。
別に開ける理由も無いし、
そこまで母親の大切な何かと思われるものにズカズカ入っていくつもりは全く無かったからだ。
幼稚園児に「爆発」の一言は酷いしさぁ・・・。ねぇ・・。
まさか、そんなとこに頭痛薬なんてないだろうから調べなくてもいいかな・・・・。
そう思って部屋を出ようとしたその時、
僕の頭の痛みはすぅっ・・・とひき、何かに肩を掴まれた感覚を感じた。
そして
「その引き出しを開けたい」という好奇心がいきなり芽生えたのだった。
テンションって怖い。
だってその後、僕は
何のためらいもなくその引き出しを開けたのだから。
振り向き、鏡台に向かって小走りに行った。
少し引っかかったように開いた引き出し。
初めてみる中。
この狭いマンションの部屋で僕が唯一今まで知ら無かったその中。
そこには・・・・
そこには・・・・・・・あった。
あった。頭痛薬が、あった。
なんでここにぃ・・・?
でも、もういらないんだよな・・・・。
隣に目をやると、一枚の写真が伏せてあった。
止まらないのね、好奇心。僕は写真をめくった。
そこには三人の産まれて間もない赤んぼが写っていた・・・・。