その二

青年は空を見ていました。
ずっとずっと空を眺めていました。
ある老人が青年に言いました。
「いくら見たって同じですよ。この町の空はずっとずっと黒いのです。」
青年は何も言いませんでした。
そのかわりに一本のハーモニカを吹き始めました。
それはとても美しく優しい音でした。
するとどうでしょう。
みるみるうちに空の黒が晴れていきます。
何年かぶりの晴れた空でした。
「あなたは魔法使いかなにかなのですか!?」
老人は歓喜の表情を浮かべながら青年に聞きました。
「いいえ、ただのしがないミュージシャンです。」
青年はてれながら答えました。
長い前髪がさらりとゆれました。
青年は次の日には姿を消していました。
白い捨て猫と赤と白の毛糸だけをこの町から連れさって。